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福岡『教師によるいじめ』事件“でっちあげ”の裏側に迫る

2003年、福岡市の市立小学校で発生した「教師によるいじめ」事件は、当時大きな社会的注目を集めました。

担任の男性教諭が、母親の曽祖父がアメリカ人であるとされた男子児童に対し、人種差別的な発言や体罰、自殺をほのめかす言動を繰り返したと報じられ、教諭は全国で初めて「教師によるいじめ」として懲戒処分を受けました。

しかしその後、裁判や再調査によって、いじめや差別発言の事実は認められず、処分も取り消される結果となりました。メディア報道と実際の事実認定が大きく食い違い、教育現場や社会に波紋を広げた事件です。

この事件の真相に迫った書籍が、福田ますみ著『でっちあげ―福岡「殺人教師」事件の真相―』です。

本書は、当時「殺人教師」として社会的に断罪された男性教諭が、実際にはいじめや差別発言をしていなかったこと、そして事件そのものが保護者側の主張とメディア報道によって作り上げられた“でっちあげ”であったことを、綿密な取材と証拠に基づいて明らかにしています。

目次

『福岡市「教師によるいじめ」事件』について

事件の経緯

発端は、2003年5月に行われた家庭訪問でした。この際、担任の男性教諭が母親から「曽祖父がアメリカ人である」と聞いたことがきっかけで問題が発生します。

母親によると、その後、担任教諭は男子児童(当時小学4年生)に対して人種差別的な発言や体罰を繰り返し、さらには自殺を強要するような言動まであったと訴えています。この訴えを受けて、朝日新聞(西部本社)が「小学校教諭が小4児童をいじめ」と大きく報道しました。

この事件は、全国紙や週刊誌、テレビなど多くのメディアによって非常にセンセーショナルに取り上げられ、社会全体の注目を集めました。

特に『週刊文春』は、「『死に方教えたろうか』と教え子を恫喝した『殺人教師』」という強烈な見出しで、教諭の実名まで公表し、事件を大きく報道しました。

その後、事件は法廷へと持ち込まれ、児童とその両親の側には全国から500人を超える弁護士が集まり、かつてない規模の弁護団が結成されました。裁判では、体罰やいじめの事実認定、そして損害賠償をめぐって激しい争いが繰り広げられました。

報道と教諭の主張

報道によると、教諭は家庭訪問の際に「日本は島国で、かつては純粋な血しかなかったのに、汚らわしい血が混ざった」といった人種差別的な発言をしたとされています。

さらに、家庭訪問の翌日以降、教諭は児童に「10秒以内に帰りの準備をするように」と命じ、それができなかった場合には「ミッキーマウス(両耳をつかんで持ち上げる)」「ピノキオ(鼻をつまんで振り回す)」などの体罰を繰り返し、児童が耳を切るなどの怪我を負ったとも伝えられました。

また、「お前は生きとる価値がなかけん、死ね」といった自殺を強要する発言があったと報じられ、児童はPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断され、大学病院の精神科閉鎖病棟に長期入院したとされています。

福岡市教育委員会は調査の結果、全国で初めて「教師によるいじめ」を公式に認定し、教諭に対して停職6か月の懲戒処分を下しました。

一方で、教諭は当初、児童や保護者に謝罪していましたが、その理由について「校長から『児童がショックを受けている』と聞き、家庭訪問の際に『アメリカの方と血が混じっているから、ハーフ的な顔立ちですね』と話したことが原因かもしれないと考え、謝罪した」と説明しています。

また、児童の両親がいじめや体罰についても主張し始め、否定しても受け入れてもらえず、校長からも謝罪を求められたため、それに従ったと述べています。

しかし、その後、両親の要求がエスカレートし、マスコミにも広まったことから、本当のことを話そうと決意したとも語っています。

教諭は、児童の頬を一度叩いたことについては認めており、その理由として「児童が他の児童に暴力をふるい、口頭で注意してもやめなかったため、指導の一環として行った」と説明しました。

また、家庭訪問で「ハーフ的な顔立ちですね」と話したことも認めていますが、「血が穢れている」といった差別発言や、重大な体罰、耳の怪我、自殺を強要するような発言については一切否定しました。

自殺強要発言については、新聞報道で初めて知ったとも主張しています。

このように、教諭は一部の行為(頬を叩いた、ハーフ的な顔立ちと話した)は認めつつも、報道で伝えられたような差別発言や自殺強要、重大な体罰などについては強く否定し続けていました。

その後の展開

その後、母親側の主張については「信用し難い」「全般的に信用性に疑問がある点が多い」と指摘され、多くの主張が認められませんでした。

主張が退けられた主な理由は、裁判や審査の過程で証言の矛盾や証拠の不十分さが明らかになったためです。特に、母親と児童の証言には食い違いが見られました。

たとえば、母親は「家庭訪問の場で教諭が『穢れた血』と言ったのを子どもが聞いた」と主張したのに対し、児童自身は「家庭訪問のときは『けがれた血』という言葉は聞こえなかったと思う」と証言しており、発言の有無や状況について一致しない点がありました。

また、原告側は児童がPTSDを発症したと訴えましたが、開示されたカルテの記載からはPTSDの症状が認められず、この点も主張が認められなかった要因となっています。

さらに、児童に「アメリカ人の血」が実際には流れていなかったことも判明し、当初の報道や家族の主張に事実誤認があったことも明らかになりました。

2013年には「いじめの事実は認められない」として懲戒処分が取り消されています。

『福岡市「教師によるいじめ」事件』の関連書籍

『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』福田ますみ

『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』は、福田ますみによるノンフィクション作品です。本書は、「殺人教師」とまで報じられ、児童への人種差別的発言や体罰、自殺強要などを行ったとされた小学校教諭をめぐる事件の真相に迫っています。

本書を読んで強く印象に残ったのは、「事実」と「イメージ」の間にこれほどまでに大きな隔たりが生じうるという現実です。

メディア報道や世論が、一方的な証言や感情的な主張に流されることで、無実の人が社会的に断罪されてしまう危うさと恐ろしさを痛感しました。

また、事実の積み重ねと関係者の心理描写が巧みに描かれており、社会派ノンフィクションとして非常に読み応えがありました。

事件の真相を追いながら、報道や世論の力、そして人間の思い込みの怖さを考えさせられる、非常に面白いノンフィクション作品です。

『福岡市「教師によるいじめ」事件』まとめ

2003年に福岡市の小学校で発生した「教師によるいじめ」事件は、当初、教諭による人種差別発言や体罰、自殺強要があったと大々的に報道され、全国初の「教師によるいじめ」として懲戒処分が下されました。

しかし、裁判や再調査を通じて、母親や児童の証言の矛盾、医学的根拠の欠如、他の児童の証言などから、いじめや差別発言の事実は認められず、最終的に処分も取り消されました。

この事件は、世の中が一方的な情報に流されやすいことや、メディアの報道と実際の事実が大きく食い違うことが、社会にどんな影響を与えるかをはっきりと示しました。

事件後、「子供は善、教師は悪」といった単純な見方や、報道の仕方について見直そうという声も上がり、今も議論が続いています。

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