MENU

有名未解決事件『八王子スーパー強盗殺人事件』を振り返る

1995年夏、日本の安全神話が揺らいだ時代の只中で、八王子市のスーパーマーケット「ナンペイ大和田店」で起きた凄惨な射殺事件は、社会に深い衝撃と不安をもたらしました。

閉店後の静かな事務所で、パート従業員と2人の女子高校生が拳銃で無慈悲に命を奪われ、金品も奪われないまま犯人は姿を消しました。

未解決のまま30年近くが経過した今も、遺族や市民は真相解明と犯人逮捕を強く願い続けています。本記事では、被害者たちの素顔や事件の経緯、捜査の行方、そしてなぜ今なおこの事件が忘れられないのかを詳しく振り返ります。

目次

【八王子スーパー強盗殺人事件】の詳細

事件現場となったスーパーナンペイ大和田店

八王子スーパー強盗殺人事件(ナンペイ事件)は、1995年7月30日夜、東京都八王子市大和田町のスーパーマーケット「ナンペイ大和田店」の2階事務所内で発生した未解決の強盗殺人事件です。

左から矢吹恵さん、前田寛美さん、稲垣則子さん

被害者は、パート従業員の稲垣則子さん(当時47歳)、アルバイトの女子高校生・矢吹恵さん(17歳)、前田寛美さん(16歳)の3人でした。
稲垣則子さんは、このスーパーで働き始めて間もない真面目なパート従業員で、事件当日も閉店後の売上金集計などを担当していました。温厚で面倒見がよく、家族や同僚からも信頼されていた人物です。事件当日は仕事後に知人男性と食事に行く約束をしており、その直前まで電話で連絡を取っていました。

矢吹恵さんは、私立桜美林高校2年生。子ども好きで将来は保育士を目指していた、明るく友人も多い少女でした。小学校時代からの幼なじみである前田寛美さんと一緒にアルバイトをしており、事件当日は夜番のレジ業務を担当していました。

前田寛美さんは、東京都立館高校2年生。普段はアルバイトの日ではありませんでしたが、この日は親友の矢吹さんを訪ねてスーパーを訪れていました。寛美さんはボランティア活動にも積極的で、老人ホームでも「気配りができる真面目な子」と評判でした。

事件当日、3人は閉店後の事務所で帰宅準備をしていたとみられ、稲垣さんは金庫のそば、矢吹さんと前田さんは私服に着替えていた状態で襲われました。犯人は拳銃(38口径スカイヤーズビンガム)を持ち、まず稲垣さんの顔面を銃把で殴打したうえで金庫の隣に突き飛ばし、至近距離から額と頭頂部に2発撃って殺害しました。その後、矢吹さんと前田さんはガムテープで口を塞がれ、互いの手を縛られ、うつ伏せで後頭部を1発ずつ撃たれて殺害されました。このため、殺害の順番は「最初に稲垣さん、次に女子高生2人」と推定されています。

また、現場の金庫には鍵が差し込まれたままになっており、犯人が稲垣さんを脅して金庫を開けさせようとした形跡がありました。ただし、実際には金庫は開けられず、現金や被害者の持ち物にも一切手がつけられていませんでした。金庫の扉には銃弾が撃ち込まれており、これは威嚇や金庫を開けさせるため、あるいは現金に執着があったことを示すものと考えられています。

3人とも即死状態で、脳幹を正確に撃ち抜かれていたことから、犯人には強い殺意と冷酷な計画性があったとみられます。犯行はわずか数分間で終わり、金品には一切手をつけず、室内を物色した形跡もありませんでした。

犯人については、現在も特定されておらず、未解決事件となっています。警視庁は事件発生から30年近く経った今も捜査を続けており、懸賞金制度も適用されていますが、逮捕や起訴に至った人物はいません。

中国人の男について当時のニュース映像

捜査の過程では、中国人強盗団の男が有力な容疑者として浮上したことがあります。彼は福建省出身で、1990年代から2000年代にかけて日本で活動していた中国人強盗グループの一員とされ、事件の手口や現場の粘着テープの使い方などがグループの特徴と一致している点が注目されました。また、事件前後に現場近くで目撃された不審な外国人男性や、強盗団関係者による「八王子事件の現場にいた」という証言もあり、警視庁はこの男の行方を追っていました。

しかし、実際にこの男をカナダから日本に送還して事情聴取したものの、本人は事件への関与を否定し、証拠も不十分で特定には至りませんでした。また、現場の足跡やタバコの吸い殻などからも決定的な証拠は得られていません。

稲垣則子さん(当時47歳)

一方で、犯人が「稲垣さんの知人ではないか」とも言われてきました。これは、稲垣さんが事件直前まで知人男性と電話で連絡を取っており、その電話を切ってからわずか2分半後に犯行が行われたこと、つまり閉店直後のごく短いタイミングで事務所に侵入し、3人を即座に射殺していることから、犯人が被害者や店の内部事情をよく知る人物だった可能性があるためです。

また、金庫の位置や閉店作業の流れを把握していたこと、現場で金庫を開けさせようとした形跡があるものの実際には金品に手をつけていないことも、内部事情に通じた人物や被害者と面識がある人物による犯行の可能性を示唆しています。さらに、事件後の捜査では「拳銃や薬物ならいつでも用意できる」と話していた稲垣さんの知人がいたことや、現場に残された証拠物からも、被害者と何らかの接点があった人物の関与が疑われました。

ただし、こうした「知人説」はあくまで捜査上の仮説であり、決定的な証拠は見つかっていません。警察は強盗目的・怨恨目的の両面から捜査を続けており、外国人強盗団説など他の可能性も並行して追及しています。現時点で犯人が稲垣さんの知人であると断定できる根拠はなく、事件は今も未解決のままです。

【八王子スーパー強盗殺人事件】まとめ

事件の情報提供を呼びかける看板

『八王子スーパー強盗殺人事件(ナンペイ事件)』についての感想は、まずその残忍さと不可解さに強い衝撃を受けます。一般市民が閉店後のスーパーで拳銃によって無慈悲に命を奪われたという事実は、当時の日本社会の「安全神話」を根底から揺るがすものでした。

事件現場には金庫を開けさせようとした形跡がありながら、現金や金品には一切手をつけていない点、犯行がわずか数分間で終わっている点など、動機や目的がはっきりしないまま今も未解決であることにも強い違和感を覚えます。警察による懸命な捜査が続いているにもかかわらず、決定的な証拠や容疑者特定に至っていない現状は、日本の刑事司法や捜査体制の限界も浮き彫りにしています。

また、事件発生当時は地下鉄サリン事件など社会不安が高まっていた時期であり、こうした未解決事件が「日本は安全な国」という意識を大きく揺るがす契機となったことも印象的です。30年近くが経った今も、遺族や市民が真相解明と犯人逮捕を強く望み続けている現実は、命の重さと未解決事件の重苦しさを改めて考えさせられます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

犯罪心理学に興味があり、「人はなぜ犯罪を犯すのか」「加害者の心の闇」といった人間の深層に関心を持っています。本や事件記録を読むことで、加害者の生い立ちや心理、社会との関係性が見えてきて、単なる“悪”として片付けられない複雑さを感じています。

このブログでは、事件の事実だけでなく、加害者の心理や社会的背景にも目を向け、本や資料をもとに「人間の複雑さ」や「社会の課題」を一緒に書いていきたいと思います。

コメント

コメントする

目次